2016年5月30日月曜日

国家破産は預金封鎖から始まる

預金封鎖

本吉正雄・著  PHP研究所


●第一次世界大戦後のドイツのハイパー・インフレ

 第一次世界大戦後のドイツで起こったハイパー・インフレーションでは、パンを一つ買うのに荷車一杯のお札が必要であった。
 ドイツは第一次世界大戦での敗北後、それまでの帝政からワイマール憲法による共和国となったが、その過程において社会的、政治的混乱を生じた。
 そして、戦災により生産が著しく減少したことに加え、ベルサイユ条約によって巨額の賠償を負担させられたために、財政赤字が急激に増大した。
 ドイツではこうした財政の支出を中央銀行であるライヒスバンクによる短期公債の引き受けという形で穴埋めしていた。
 このため、資産の裏付けのない不換紙幣がどんどん発行されるようになり、それに併せて紙幣の価値は減少していき、物価はうなぎ登りに上昇した。
 また、ドイツの通貨であるマルクの為替レートも下落していった。こうした物価の上昇と為替レートの下落は、復興のために国内外からの物資を必要としていたドイツ政府の財政赤字をさらに増大させ、それに対応するために不換紙幣を発行するという悪循環に至った。
 ドイツ政府はベルサイユ条約で定められた賠償金さえも支払い不能に陥ったため、フランスはドイツの主要産業都市であるルール地方を占領した。こうした事態が起こるに至って、ドイツの不換紙幣の信用は決定的に下落した。
 このため、ドイツでは不換紙幣を物資や海外資産に替えようとする動きが活発になり、物価は一日のうちにどんどん上がるといった様相を呈した。
 ドイツでは、家計を与る主婦が主人の工場の前で帰宅を待ち、出てきた主人の日給をひったくって市場へ行き、生活必需品を買い付けるという事態まであらわれた。
 帰宅するまで待っている間に物価が上昇し、生活必需品の値札が書き換えられてしまうためである。
 こうした狂乱物価の名残を示す高額紙幣については、日本銀行の貨幣博物館で目にすることができる。

●札を重さで計った戦後日本のハイパー・インフレ

 日本ではそこまで通貨の価値は下がらなかったものの、それでもお札の流通量は戦後の6カ月で数倍に膨れあがった。流通量が数倍ということは、単純に考えて物価が数十倍以上に上昇したと考えられる。
 この程度では荷車の出番はなかったものの、それでもお札を「枚数」ではなく「目方」で計るような事態はあちこちでみられた。
 当時、都市近郊の消費者に対して農産物を販売していた農家では、売り上げを計算する際に、当時の最高額面紙幣であった100円札を束にして1尺(約30センチ)に達すると祝宴をした、という光景が当時の新聞記事に取り上げられている。
 この1件をみてもわかるように、終戦直後はインフレーションの進展により最高額面の100円札でさえ厚さで計るような事態が生じていた。
 インフレーションの進展を取り上げた新聞記事でも、「100円といえば、つい先ごろまでは「大金」に属したが、いまではホームレスでも100円や200円の札を握っていることが珍しくない」と報じている。

●インフレの行き着く先は物々交換

 こうした状況下ではもはや通貨は意味をなさず、売り手がお札を受け取ることが拒否される事態も見受けられた。
 紙幣が、通貨が信用できないというハイパー・インフレーションの行き着く先は、原始的な「物々交換」であった。
 農村において通貨による取引ではなく物々交換が主要であったことから、当時の都市生活者も、食糧を手に入れるために自分の所有物との物々交換により生活必需品を入手するようになっていた。
 とくに衣類がその対象となったため、このような物々交換による生活については、「タケノコ生活」と評されていた。これは1枚、また1枚と衣類を持ち出す様子を、タケノコの皮を剥ぐ様子に喩えたもので、紙幣が通用しない世相を表す言葉としてはまさに的を射たものといえるであろう。

●預金封鎖より財産税が恐ろしい

 こうして下がってしまった不換紙幣・通貨の価値を高めるために、財産税を実施して紙幣の流通量を減少させ、そのために預金を封鎖して新円に切り替える、というのが戦後の預金封鎖・財産税の目的であった。
 ここで預金封鎖と財産税の関係について簡単に説明しておきたい。
 預金封鎖はその名が示すとおり、預金がおろせなくなることである。こうした措置は、インフレーションだけでなく、銀行の取り付け騒ぎが発生したときにも実施される。
 銀行の取り付け騒ぎで実施された預金封鎖としては、昭和初期の金融恐慌の際に行なわれた「モラトリアム(支払い停止措置)」がある。
 昭和初期の預金封鎖の際は、取り付け騒ぎの中で銀行が倒産するという金融恐慌をおさめるためであり、インフレーションは存在しなかった。
 このため、預金の引き出しを一時封鎖し、銀行に十分資金を行き渡らせたうえで預金封鎖を解除する、といった方策がとられ、財産税が実施されることはなかったのだ。つまり、預金封鎖だけであれば私たちの財産はさほどの影響を受けないのである。
 しかし、戦後の預金封鎖については財産税の徴収も同時に実施された。じつはこれが大問題なのである。戦後の預金封鎖は、財産税を徴収するために実施されたものであった。
 実際に私たちの生活に大きな影響を与えることになるのは、こうした財産税の徴収を前提とした預金封鎖の可能性であるため、私は預金封鎖を財産税とセットにして説明していきたい。

●財産税とセットで実施された戦後の預金封鎖

 戦後におけるハイパー・インフレーションの退治のためには、預金封鎖だけでは不十分であることは当時から理解されていたために、併せて財産税の徴収も行なわれたのだった。このあたりの事情については日本銀行出身のエコノミスト吉野俊彦氏が『戦後の金融政策の推移
と展望』(地方銀行協会編、銀行叢書Ⅵ)において、

 「昭和20年11月までは、財産税の調査の手段として旧券を新券に引き替え、預貯金に一時モラトリアム(筆者注:預金封鎖のこと)を布くことは決まっていたが、財産税の調査が終わったら解除するという考え方であったように思われるのであります。そこで日銀は政府と打ち合わせをして、新券の印刷を12月以前からやっておった。ところが預金引出の非常に顕著な状況から考えて、……本当に本格的なモラトリアムをやらざるを得ない。というようにだんだん考えが変わって来たのであります」

 と、当時の状況を述べている。

●「名寄せ」に使える「住基ネット」

 預金封鎖が困難な理由として、「名寄せ」の問題が重要であることはすでに指摘したとおりである。
 国民がどれだけの資産を持っているのか、預貯金・株式・国債・外貨・不動産をどれだけ持っているのかを明らかにしない限り、預金封鎖・財産税の徴収を行うことは不可能である。
 そして、それが不可能であれば預金封鎖が起こる可能性はきわめて低いということができる。
 では、「名寄せ」が簡単に実施できるとなればどうなるのであろうか。これでは国民の財産はもう外堀だけでなく内堀まで埋まったということができる。それこそ明日にでも預金封鎖・財産税の実施が行われる可能性さえあるのだ。
 実際にそんなことが可能なのであろうか。
 単純に結論を言えば十分に可能である。それを可能にするのは「住基ネット」と「納税者番号」の存在である。
 すでに米国では社会保障番号がID代わりになり、銀行口座の開設や不動産取引などの場面で使用されている。
 日本の住基ネットや「納税者番号」も、銀行口座の開設や各種の取引における利用が想定され、さまざまな研究・実験が行なわれているところである。
 この住基ネットを取引に利用できれば、これまで煩雑であった納税の手続きをネット上で完了させることができる。
 政府税制調査会では金融商品の一体課税を実現する際の必須条件として、平成17年までに納税者一人ひとりに番号を付けて管理する納税者番号制度を導入する方針を打ち出した。
 この制度を使えば、税務当局が納税者の取引内容全体を把握でき、都合のいい部分だけ損益を相殺して申告する不正操作を防げるためだ。
 ただプライバシー保護の観点から同制度への抵抗感も強く、一体課税の実現に向けた障壁になりかねない。
 このため財務省などでは納税者の理解を得ながら同制度を導入する方法として、金融商品の損益を相殺できるという税制上の恩恵と組み合わせて、希望者だけ番号を付ける案を考えている。
 もっとも当面は番号の取得者しか利用できず、税制の公平性の面から問題が残る。すでに国民についている基礎年金番号や住民基本台帳の住民コードを転用する案も出ているが、年金など他の公的サービスの番号を徴税にも利用することに国民の理解を得づらいのが問題となっている。

●なわ・ふみひとのひとくち解説

  日本政府の莫大な借金(国債)問題を解決するためには、ハイパーインフレが必要なのです。政府は国民に気づかれないようにしながら、しっかりとその準備を進めています。
 政府と日銀が結託して考えているシナリオは――

 ①国債と円の暴落 → ②緊急事態宣言(国家破産) → ③IMFへの支援要請
 → ④預金封鎖を初めとする荒療治

 ――ということではないかと思っています。
 元日銀マンの著者・本吉氏が本書で述べているように、国民の財産を把握するシステム(住基ネット=マイナンバー制度)が完成すれば、外堀も内堀も埋められた状態なのです。あとは、長期金利が上昇し、国債の暴落という引き金が引かれれば、国家破産が現実となります。
 以下は最近の新聞の記事です。さりげなく報道されたニュースの裏に潜む政府の意図に注目しておく必要があります。

■■毎日新聞ニュースメール
http://mainichi.jp/
2015年9月4日(金)朝
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金融資産の監視強化 マイナンバー

 10月から国民全員に通知されるマイナンバーを、2018年から任意で預金口座にも適用する改正マイナンバー法が3日の衆院本会議で成立し、マイナンバーの活用範囲が現在決まっている制度より広がり、国による金融資産の監視体制が強化されることになった。一体で審議された改正個人情報保護法も成立。企業が持つ膨大な個人情報「ビッグデータ」が活用しやすくなる。行政の効率化や利便性向上が期待される一方、個人情報の管理が課題となる。

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