2016年6月8日水曜日

日銀の国債買い入れは国家破産の下準備

■国家破産

 これから世界で起きること ただちに日本がすべきこと

 吉田繁治・著  PHP研究所


 日本で財政破産が起こったときの仮想風景

 米国のノーベル賞経済学者クルーグマンは、デフレを終わらせ、日本の期待インフレ率を高めるためには、日銀が国債を買って、いくらでもマネーを刷ればいいといまも主張しています。レスター・サローも同じ主張ですが、これらは、以下の展開をみない無謀な論です。

 クルーグマンのすすめで、日銀が「債券市場から国債を物価が上がるまでいくらでも買う」という姿勢を見せれば、
 ①債券市場では国債価格の下落を恐れた売りが殺到して金利が上がり、
 ②満期が来る国債も、日銀引受けを迫られるでしょう。
 この結果は、どうなるか?
 借換債158兆円、新規債40~50兆円で、1年に200兆円くらいの「1万円札の発行」になる可能性もあります。200兆円が金融機関の当座預金(金利ゼロ)に貯まります。金融機関は、金利ゼロのマネーを200兆円ももてば、赤字になります。
 このため、なにかで運用しようとする。企業への貸付は、リスクが高い。国債は下落リスクがあるので買えないとなると、投資信託やヘッジ・ファンドへの預託、または金利がつく外貨預金でしょうか。
 こうして日銀が刷った日本円の膨大なマネーが、海外に流出します(キャピタル・フライト)。円の海外流出は円売り・ドル買い、またユーロ買い、元買いなので、為替市場で、円は暴落します。
 円暴落の気配があれば、海外が日本にもつ債券(日本の株や国債)の312兆円は、大挙して売られます。遅れれば、円安差損の損をするからです。
 円債券を海外から大きく売られた日本の金利はいっそう上がって(10%以上か?)、950兆円規模の既発国債の価格と株価は、再び底なしに下がるでしょう。国債を買う日銀も、バランス・シートに埋めきれない巨大な損失をかかえます。信用を失った日銀が発行する円の価値は、下がるのです。

 1%の円10年債の期待金利が、ギリシア、ポルトガルのように10%に上がるとどうなるか。
[国債を含む債券価格=(1+額面に対する表面利率×残存期間)×100÷(1+期待長期金利×残存期間)」です。[国債価格=(1+1%×10年)X100÷(1+10%×10年)=110÷2=55]です。国債価格は45%も下落し、まぎれもない国家破産です。
 国債をもつ金融機関は、一斉に全部つぶれ、預金取付けが起こります。1年50兆円の公的年金が払えない。35兆円の公的医療費も支払えず、40兆円の全公務員給料はもちろん払えない。国債の45%の下落で、400兆円規模の損失が生じるからです。ソ連崩壊(1989年)のとき起こったことがこれでした。

 このとき、日経平均はジェット・コースターのように下がり、5000円以下でしょうか。
 $1=200円という円安に回帰するかもしれません。輸出は、徐々に増えるでしょうが、輸入の資源がいまの3倍に向かって上がります。貿易は赤字になります。これが、所得増のないインフレ、つまりスタグフレーションを生みます。

 一般にいえば、通貨価値の下落は、ハイパー・インフレに向かう物価の高騰です。しかし10年代の経済では、戦後にあったような、物価が10倍、100倍、300倍に上がるハイパー・インフレは起こりません。
 先進国での国家財政の破産を、即、ハイパー・インフレとする多くの論は、世界の商品供給力が増え、グローバルなコンテナによる商品流通が急増したことをみない粗雑な俗論です。500兆円ものマネー(購買力)が日々、巨大に移動し、商品も高速で国境を越えるグローバル化した経済では、60年前の資本にも商品にも移動の障壁があった時代とは、根本的に異なるのです。

 インフレの性格が異なる

 新興国の工業化と、先進国での生産力余剰があって、消費者物価は上がりにくい。ハイパー・インフレになるのは、たとえば戦争で、工場、農地、商品流通が破壊され、必需の商品や食品需要を満たせないときです。
 ただし、供給量に限界がある資源・エネルギー・穀物・食品等の基礎生活物資は、財政破産を起こした国にとって数倍の価格に高騰するでしょう。

 通貨が2分の1に下がった国の輸入物価は2倍に上がるので、それを原因にした商品インフレは必ずありますが、ハイパー・インフレとはいえません。ハイパー・インフレは物価が10倍以上です。
 わが国で国家の財政破綻があったときの消費者物価のインフレは50~100%と想定します。不動産も、10年後の人口が大きく減らない地域では、2倍の価格になるでしょう。

 政府部門は、財政が破綻すると、400万人の公務員を100万人以上削減し、給与水準を70%におさえる削減を図らねばならなくなります。

 債券市場が国債を買わないこと、あるいは国債先物が売られることによる国家財政の破産は、将来の日本のために悪いことだけではない。避けるべきは、日銀が財政破産を避ける目的で国債を買うマネーを刷り続ける量的緩和の継続から起こる、ハイパーに近いインフレです。これは国債と金融資産の価値を紙くずにします。

 国家財政の破産は、官僚組織(国家+地方+独立行政法人)の財政破産です。この世の終わりではない。公務員は給料が減らされ、定員が削減され、年金と公的医療費、および社会福祉費が減って、増税に向かう変化です。これは選択肢ではない。そうせざるをえないのです。

 戦争とは違い、信用危機・恐慌は、工場、店舗、オフィス、ホテル、レストラン、インフラ設備、国土と自然、そして人材と技術は残ります。街の外見は変わらない。海辺の街を一瞬で瓦礫にした悪夢のような、人々の命を根こそぎ奪う津波ではない。大震災と原発を経験した日本人にとって、これ以上にこわいものはない。3・11にくらべれば、たかがお金です。国家財政破産があっても、悲観しないことです。

なわ・ふみひと ひとくち解説
  本書で特に参考になると思う内容を以下にピックアップしました。それぞれに私のコメントをつけていますので、ぜひ参考にしてください。

●国債をもつ金融機関は、一斉に全部つぶれ、預金取付けが起こります。1年50兆円の公的年金が払えない。35兆円の公的医療費も支払えず、40兆円の全公務員給料はもちろん払えない。

 国債が暴落すれば、たくさんの国債を保有している銀行や保険会社等は倒産し、預金の取り付け騒ぎが起こるのは避けられません。政府は混乱を鎮めるためという理由で堂々と「預金封鎖」を実施するでしょう。国民は預金を下ろすことはできなくなるのです。その間にインフレが進めば、お金の価値はどんどん暴落していきます。ですから、国家破産は「国民破産への道」と考えておく必要があるのです。

●ハイパー・インフレになるのは、たとえば戦争で、工場、農地、商品流通が破壊され、必需の商品や食品需要を満たせないときです。
ただし、供給量に限界がある資源・エネルギー・穀物・食品等の基礎生活物資は、財政破産を起こした国にとって数倍の価格に高騰する

 日本が国家破産したあとに首都直下地震、南海トラフ地震、あるいは富士山の噴火等によって工場や農地、商品流通など社会のインフラが破壊されたとしたらどうなるでしょうか。それこそ戦後と同じかそれ以上のハイパー・インフレに見舞われることになるでしょう。私が予測する「日本沈没」のシナリオです。

●避けるべきは、日銀が財政破産を避ける目的で国債を買うマネーを刷り続ける量的緩和の継続から起こる、ハイパーに近いインフレです。これは国債と金融資産の価値を紙くずにします。

 「国家破産」の影響について、どちらかと言えば楽観的な著者ですが、現在日銀が行なっている「国債を買ってマネーを刷り続ける量的緩和」はハイパー・インフレを起こし、国債と金融資産(株や銀行預金など)を紙くずにすると述べています。政府・日銀はすでにルビコン川を渡ったのです。国家破産後のハイパー・インフレによって国債が紙くずになる日が近づいています。

●公務員は給料が減らされ、定員が削減され、年金と公的医療費、および社会福祉費が減って、増税に向かう

 公務員の給料や定員が減らされることには、国民の多くは歓迎するかも知れません。ただし、警察や消防などが十分機能しなくなることは社会不安を増大させます。街に失業者が溢れ、今日食べるものに事欠く人たちが増えていけば、日本社会も外国並みの治安の悪化は避けられないでしょう。もちろん、私たち自身が失業し、あるいは年金を減らされてしまって、いつ路頭に迷うことになるかも知れません。
 現在のアメリカのように、国家破産もしていないのに、リーマンショック以降4,000万人を超える人たちが、政府が支給するフードスタンプ(低所得者に向けた食料費補助制度)によって食いつないでいるような社会が訪れることも覚悟しておく必要があるでしょう。

●戦争とは違い、信用危機・恐慌は、工場、店舗、オフィス、ホテル、レストラン、インフラ設備、国土と自然、そして人材と技術は残ります。街の外見は変わらない。

 現在、日本はアメリカから戦争を仕掛けられているのです。ただ、戦争といっても、その武器は爆撃機や戦車、戦艦などではありません。今日の戦争は経済戦争、情報戦争、そして気象兵器による戦争なのです。
 アメリカは早くから(1990年ごろから)日本に経済戦争を仕掛け、まもなく日本の国家破産を実現させようとしています。そして、その次は人工地震・津波、さらには富士山の噴火等の気象兵器によって、文字通り日本という国を世界地図から消し去ってしまおうとしている、というのが私の分析です。
 地震や津波に襲われれば、街の外見は変わります。工場も、店舗も、オフィスも、レストランも、国土と自然も破壊され、多くの人材と技術も失われることでしょう。
 そのようなアメリカ(を裏から支配する層)の攻撃に日本国民が気づかないように、マスコミを使った巧妙な情報戦によって、日本人の関心を逸らしていると思われます。まずは、国家破産が近づいていることに気づかないように、そして、そのあとに人工的な自然災害を起こしても、それは純粋な天災だと思わせるように……。
 「原発の再稼働に賛成か反対か」とか「集団的自衛権に賛成か反対か」と、国民の関心を別のテーマに向けさせながら、国民を路頭に迷わせる国家破産とハイパー・インフレの危機が近づいていることを隠しているのがわかります。戦時中と同じように、操られたマスコミを使っての情報戦で、国民はいとも簡単に煽動されるのです。




2016年6月2日木曜日

首都直下地震で東京は壊滅する?

■巨大地震Xデー


藤井聡(内閣官房参与・京都大学大学院教授)・著  光文社


 まえがき

 「巨大地震によって、この国が如何にして潰れるのか」をイメージせよ!

 今、多くの日本人は、首都直下地震や南海トラフ地震といった「巨大地震」が、いつ起きても仕方がない状況にあることを、頭では理解している。
 テレビニュースや新聞では時折、「巨大地震の被害は220兆円」「死者は32万人にも上る」といった凄まじい水準の数字が踊っているので、それを目にしたことがある人も多いだろう。
 しかし、そんな恐ろしい数字がどれだけ報道されようとも、その数字が意味する内容を、実感をもって心ではっきりと理解している人は逆に、極めて少ないのではないかと思う。
 いわば、巨大地震というものを、どこか「人ごと」のように感じているのが、現代の平均的な日本人なのである。
 何事においても、人間というのは、「頭」で分かっていても「心」で分からなければ何もしない生き物だ。
 だから、今の状況が続く限り、人々は、巨大地震に対する備えを進めていかないのだろうと、筆者は感じている。
 そしてその結果、「災害に備えるために、国力のすべてを振り絞って、日本を守らなければならない」という大きな世論のうねりが生ずることもないだろうと、思っている。なぜなら「いつ起こるか分からないことに、様々な資源を大規模に投入する」ことを、国民は許さないだろうからである。

 ――残念としか言いようがない。

 例えば、「気を抜いているとき」に後ろから殴りかかられると、取り返しの付かない大けがを負ってしまうが、「身構えて」さえいれば、たいしたけがにはならない。「備え」というものは、仮にそれがわずかであっても、被害を随分と軽減するものなのである。

 だから、〝このまま〟では地震の被害は、何倍、何十倍にも膨らんでしまうことは、火を見るよりも明らかなのだ。
 多くの人々の命が失われると共に国内産業は激甚被害を受け、日本経済は長期的に低迷し、街は失業者であふれる。復旧のための出費はかさむ一方で、低迷する経済の中で税収は極端に減ってしまい、財政は今とは比べものにならないくらいに悪化する……。
 財政規律を守ることにあまりに固執すると、将来の財政悪化をもたらすのである。「短期
的な合理性」の追求が、「長期的な合理性」を著しく損なわせると言い換えてもいい。
 それは丁度、事故を起こすことがほぼ確実だと言われているドライバーが、日頃の出費を抑えるために自動車保険に入らないようなものだ。彼は月々数万円の出費を削ったために、いざことが起こってしまうと、何千万円、何億円という借金を抱え、生涯、その借金に苦しみ続けるのだ。彼は、二度と以前の「普通の暮らし」には戻れない。
 筆者は、我が国もまた、この不幸なドライバーのように、十分な備えをしないままでいれば、早晩起こる巨大地震によって、今のような「普通の暮らし」がもう2度とできない国になってしまうであろうことを、ほとんど間違いのないことと予期している
 なぜなら筆者は今、安倍内閣の内閣官房にて、参与として日々、巨大地震によって如何なる深刻な事態が生じるのかを、様々な専門家と共に、様々な角度からシミュレートし続けているからである。
 そんな筆者から見れば、我が国の政・官・財・学におけるあらゆる取り組みのすべてが、哀しいかな、「滑稽」に見えて仕方がないのだ。巨大地震により巨大な被害が生ずることが確実であるにもかかわらず、皆でよってたかって、集団で、その迫り来る危機を無視し続けているからである。
 それはさながら、川の水が急激に増えて、水没することが明らかな川の中州で――数分後に自らの命が奪われることを知らずに――冗談を言い合いながらバーベキューを楽しんでいる若者グループのようだ。

 それは哀しくも愚かしい、集団心理の悲喜劇だ。
 筆者は、どうにかして、国家レベルのそんな悲喜劇を回避したいと、心から願っている。

 こうした最悪の未来を避けるために必要なことは、たった1つしかない。
 1人でも多くの国民が、巨大地震が起こったときに、何が起こるのかを深く「想像」することだ。
 災害の悲劇は、想像力の欠如がもたらす。
 中州の若者達の悲喜劇も、彼等の想像力の欠如がもたらすものだ。彼等に、自分が死ぬことを想像する力さえあれば、いともたやすく自らを救えるはずなのだ。
 だから今の日本も、「巨大地震によって、この国が如何にして潰れるのか」ということを、
多くの国民が正確にイメージできさえすれば、救われるのである。

 本書は、1人でも多くの国民に、来たるべく「巨大地震Xデー」に一体何が起こるのかを、あらゆる側面にわたって深くイメージしてもらうことを祈念しつつ書いたものである。
 それは、今、安倍内閣で進めている「国土強靭化」と呼ばれる行政の中で、内閣宮房を中心にあらゆる省庁と一緒に、何力月にもわたって徹底的に行なった作業に基づいている。
 だからその内容は、現時点の我が国の、危機管理における最高峰、最先端のものといって差し支えない。

 筆者はこの本を通して、1人でも多くの国民に、「巨大地震によって人が如何にして死に
得るのか」「この国が如何にして潰れ得るのか」を、しっかりとイメージしてもらいたい。
 イメージすることが、そして唯一それだけが、国民1人ひとりの命を守り、この国を守る最強の力を、私たちに与えてくれるのである。

 Chapter 1 今そこにある危機を再認識せよ!

 国民もイメージを共有し始めた「巨大地震」の危機

 3・11の東日本大震災は、2万人近くもの方々の命を奪い、数多くの街々に巨大な被害をもたらした。同時に、私たち日本国民に、我々が暮らしているこの日本列島には巨大な自然災害の危機が常に潜んでいるという「現実」を、まざまざと見せつけた。
 そして――忘れかけていた深刻な危機を思い起こさせた。

 「南海トラフ地震」と「首都直下地震」だ。

 多くの国民は今、どうやらこれらの「巨大地震=メガクエイク」が身近に迫っているらしい、という認識を共有しつつある。そして、それらは、何十万人という人々の命を奪い、何百兆円という巨大な経済被害をもたらすものなのだというイメージを、おおよそつかみつつあるように思う。
 実際、政府は今年(2013年)3月に、南海トラフ地震について、科学的な推計に基づき、東日本大震災の10倍を超える規模の被害が生ずる可能性を公表している。
 (中略)

 「国土強靱化」で、あらゆる危機を「強く、しなやかに」凌ぎきる

 「国土強靱化」をひと言で言うなら、それは、「国家の危機管理」のことである。
 つまり、巨大地震をはじめとする様々な国家的な危機を乗り越えるための取り組みそのものが、国土強靱化なのである。
 あるいは、軍事的な安全保障との対比で言うなら、それは「経済社会的な安全保障」とも言うことができる。
 一般に「安全保障」という言葉は、近隣諸国等との軍事的紛争に関連するものとして用いられているが、何も、国家の安全を脅かすのは軍事的脅威だけではない。巨大地震もまた、国家の経済や社会の安全を脅かす巨大な脅威である
 そうした視点に基づく国家的な危機管理や安全保障を図るために、一体何をすべきかを徹底的、かつ、総合的に考え、そのうえで、あらゆる危機を「強く、しなやかに」凌ぎきるために求められるあらゆる取り組みを進めていこうとするのが、国土強靭化の考え方なのである。

 「国土強靭化」は全分野、全省庁にまたがる「オールジャパン」の取り組み

 そんな強靱性を国家レベルで確保し、「ナショナル・レジリエンス」(国家強靱性)を高めていくには、実に様々な取り組みが求められている。
 例えば、国民が皆、巨大地震について無知であれば、巨大地震Xデーには、国民は全くの「無防備」のまま、その巨大な破壊エネルギーの直撃を受けてしまう。したがって、国土強靭化のすべての基本は、1人でも多くの国民や組織、法人に、「今、そこに、巨大地震の危機が迫っている」という認識を持ってもらうことなのである。
 一般的にこうした危機意識を、正しく国民に持ってもらうための取り組みは「リスク・コミュニケーション」と呼ばれている。この対策を進めるためには、文部科学省を中心とした政府の関係部署が、国民と直接コミュニケーションを図り、教育を徹底的に進めていく必要がある。
 あるいは、巨大地震の際には様々な工場が被害を受ける。そして、その被害は、蜘蛛の巣のように張り巡らされた「サプライ・チェーン」を通して日本中、さらには世界中に深刻な水準に増幅していく。この問題に迅速に対処しなければ、日本経済の心臓部・東京を襲う首都直下地震の被害は、日本経済に、2度と回復できない水準の被害をもたらしかねない問題となる。
 それを食い止めるには、経済産業省を中心とした関係部署による対策が、どうしても求められる。
 経済産業省と言えば、巨大地震Xデーにおけるエネルギーの安定供給という重大な責務を持っている。石油、ガス、そして、電力が、Xデーにおいて途絶えてしまえば、日本経済は、極めて深刻な被害を受けることとなる。
 さらには、Xデーにおいては、何百万人にも上る負傷者の発生が危惧されると同時に、多くの人々がガレキの下敷きになり、そして、被災地のあらゆるところで火災が発生する。そこで求められるのは救援であり消火活動である。この活動のためには、警察、消防、自衛隊、海上保安庁等の様々な組織の力が必要となる。
 そうした救援活動をはじめとした、Xデーにおいて必要とされる膨大な量の対応を進めるためには、関係諸機関の間の「通信」が使える状態となっていることが不可欠である。
 しかし、Xデーにおける被災によって、それは必ずしも保証されるものではない。この点の対策には、総務省の事前の取り組みが是が非でも求められている。
 その他、Xデーには膨大な量の医療需要が発生するが、その対策のためには厚生労働省の力が必要であるし、食料に関する工場の大規模被災やサプライ・チェーンの断裂で、「食料不足」が被災地内部のみならず日本中で懸念されているが、これについては農林水産省の力が必要である。
 あるいは、膨大な金融データが、万が一にも被災し、消滅してしまえば、日本経済、ひいては世界経済に及ぼす金融、経済上の被害は、想像を絶するほどに甚大なものとなろう。したがって、この懸念のためには、金融庁の取り組みも不可欠である。
 そして最後に、以上の様々な取り組みのためには、実に様々なインフラが、Xデーにおいても機能していることが必要不可欠である。したがって、インフラを所管する国土交通省の様々な取り組みが求められていることも間違いない。
 すなわち、巨大地震を想定した国家の危機管理のためには、経済、医療、食料、エネルギー、インフラ、消防、自衛隊、学校教育、情報通信、産業、金融といった、日本国内のありとあらゆる領域における取り組みが必要なのである。



なわ・ふみひと ひとくち解説
  私が共感する内容が非常に多い本です。その中でも、特に注目が必要と思われるポイントを抜き書きして私のコメントをつけました。

●「巨大地震の被害は220兆円」「死者は32万人にも上る」

 早くから首都直下地震と南海トラフ地震を予測しているアメリカ国防総省は、この2つの地震による日本人の死者を2,000万人と予測しているのです。この違いはなぜでしょうか? アメリカが予測する2,000万人は、日本のどこに住む人たちを計算に入れているのでしょうか?


●巨大地震というものを、どこか「人ごと」のように感じているのが、現代の平均的な日本人なのである。

 東京に住んでいなくても、首都直下地震で首都が崩壊すれば、日本人はすべて塗炭の苦しみを味わうことになります。日本列島に住んでいるすべての日本国民にとって、決して「人ごと」ではないのです。


●今の状況が続く限り、人々は、巨大地震に対する備えを進めていかないのだろう。

 既に著者は「日本人は巨大地震に対する備えをしないだろう」と諦めているようです。


●その結果、「災害に備えるために、国力のすべてを振り絞って、日本を守らなければならない」という大きな世論のうねりが生ずることもないだろう。

 だから「地震対策をしっかりやれ!」という世論のうねりは生まれないだろうと、藤井氏は嘆いています。「残念としか言いようがない」と。


●〝このまま〟では地震の被害は、何倍、何十倍にも膨らんでしまう。

 「地震対策をしっかりやれ!」と世論が沸騰しなければ、当然対策のレベルは〝このまま〟でしょう。その結果、地震の被害は予測の何十倍にも膨らむことになるのです。


●多くの人々の命が失われると共に国内産業は激甚被害を受け、日本経済は長期的に低迷し、街は失業者であふれる。

 地震や津波で多くの人の命が奪われることも問題ですが、日本経済が根底から破壊されることで、地震後、街には失業者やホームレスの人たちがあふれかえることになるというのです。当然、治安も悪化すると思われます。


●早晩起こる巨大地震によって、今のような「普通の暮らし」がもう2度とできない国になってしまうであろうことを、ほとんど間違いのないことと予期している。

 日本は敗戦後、国土が焼け野原となった中から奇跡と言われる復興を遂げましたが、今回はもう「普通の暮らし」はできなくなるでしょう。世界の最貧国の仲間入りをするからです。というより、「日本」という独立国家は消滅し、国連(実質はアメリカ)による信託統治国になるのは間違いないと思っています。それが私の言う「日本沈没」の姿なのです。


●それは哀しくも愚かしい、集団心理の悲喜劇だ。

 「赤信号みんなで渡れば怖くない」というのが集団心理です。周りの人たちが地震に備えていないことで、なんとなく安心してしまう心理でもあります。「死ぬ時はみんな一緒だから」と思って自分を慰めるのです。哀しいことですが……。


●東日本大震災の10倍を超える規模の被害が生ずる。

 4年以上経っても東日本大震災の復興はまだほとんど手つかずの状態です。その10倍規模の被害があれば、国家が破産するのは避けられません。しかも、首都が崩壊することで国家として機能することはできなくなり、日本国民はアメリカをはじめとする外国の救援で細々と生きるしかない状態になってしまうでしょう。


●何も、国家の安全を脅かすのは軍事的脅威だけではない。巨大地震もまた、国家の経済や社会の安全を脅かす巨大な脅威である。

 実は、首都直下地震も南海トラフ地震も「地震兵器」による攻撃なのです。攻撃を仕掛けてくる相手が同盟国・アメリカ(を裏から支配する層)なのでたちが悪いのです。詳しくはぜひ拙著『日本沈没最終シナリオ』をお読みください。


●巨大地震の際には様々な工場が被害を受ける。そして、その被害は、蜘蛛の巣のように張り巡らされた「サプライ・チェーン」を通して日本中、さらには世界中に深刻な水準に増幅していく。この問題に迅速に対処しなければ、日本経済の心臓部・東京を襲う首都直下地震の被害は、日本経済に、2度と回復できない水準の被害をもたらしかねない。

 首都直下地震と南海トラフ地震、さらには富士山の噴火によって、日本の「サプライ・チェーン」は見事に破壊されます。日本経済が再び回復することはないでしょう。そもそも、日本をそのような状態に陥らせることがアメリカ(を裏から支配する層)の目的なのですから。


●Xデーにおいては、何百万人にも上る負傷者の発生が危惧されると同時に、多くの人々がガレキの下敷きになり、そして、被災地のあらゆるところで火災が発生する。

 阪神淡路大震災のときも、建物の倒壊などによって道路が寸断され、消防車が火災現場に駆けつけることはできませんでした。日本一の人口密集地である東京が巨大地震に見舞われれば、道路は車で溢れ、また至る所で火災が発生しますので、何日間も救援は来ないと考えておく必要があります。道路上の車に火が付けば爆発が連鎖し、火災が次々と広がっていくと思われる点が、先の関東大震災のときとは大きく違っています。


●食料に関する工場の大規模被災やサプライ・チェーンの断裂で、「食料不足」が被災地内部のみならず日本中で懸念されている。

 食品工場が被災しなくても、商品の受発注や流通システムが壊れるのは避けられませんから、日本国内に食料を届けることはできなくなります。深刻な食料危機を覚悟しておく必要があるでしょう。まさに、「大本神諭」や「日月神示」で予言されているとおりの状況が生まれるのです。


●膨大な金融データが、万が一にも被災し、消滅してしまえば、日本経済、ひいては世界経済に及ぼす金融、経済上の被害は、想像を絶するほどに甚大なものとなろう。

 日本経済の崩壊により、世界大恐慌を引き起こすことになるのは避けられません。既に崩壊寸前の中国経済のバブルもはじけ、世界中が大動乱に巻き込まれることになるはずです。


●様々なインフラが、Xデーにおいても機能していることが必要不可欠である。

 必要不可欠な様々な社会のインフラですが、電気が止まるだけてすべてが機能しなくなります。もちろん、通信手段のスマホや電話も使えなくなり、日本の中で何が起こっているのかを知ることもできなくなるでしょう。いまのまま、十分な対策がされなければこうなる――ということを藤井氏は警告しているのです。しかし、日本がそのような対策をとるはずはないと、すでに諦めていることがわかります。
 藤井氏が内閣参与の立場でいくら地震の恐怖と対策の必要性を強調しても、日本人の多くは、日々のスポーツニュースに関心を奪われ、東京オリンピックで金メダルが何個とれるかといった話題に幻惑されていくことでしょう。そもそも、首都直下地震を世界中のマスコミが話題にしているというのに、当の日本人が東京オリンピックの準備のことで騒いでいる場合でしょうか。マスコミの意図的な目くらましによって、日本人の多くは、危機を認識する能力そのものを失っているとしか思えません。
 が、それでも私は一縷の望みを持って、当サイトの読者のみなさんに「老いたオオカミ少年」として警鐘を鳴らし続けていくつもりです。